石川寛『ペタルダンス』(2013年)
を観ました。
石川寛の『tokyo.sora』(2002)『好きだ,』(2006)は,私にとって世界最後の日に観る映画の2本で,7年ぶりの新作をやっと観ることができて,はじまる前から超テンション高かったです。しかも,入場番号1で,入場できるようになってもお客さんは来ず。結局お客さんは私1人だけでした。
パンフレットのイントロダクションによれば,「大学時代からの友だち,ジンコと素子は驚くような話を耳にした。6年間会うことのなかったクラスメートのミキが,みずから海に飛びこんだらしい,と。ふたりは,ジンコがたまたま出会った原木と一緒に,一命を取りとめたミキの暮らす町へ向かう。北の果てにある風の町へ――。」というストーリーです。
石川寛は,撮影の時制を厳守し(映画の中の時間どおりの順番で撮影する。),撮影の日の朝にプロットや言葉の断片を書いた手紙をそれぞれの俳優に渡し,そこで生成する空気をすくい取るという演出が特長の監督です。
『ペタルダンス』でも,特に,原木役の忽那汐里が,突然音信不通になって生きているかどうか分からない友人のキョウコ(韓英恵)のことを想う表情とか本当に素晴らしくて,もう表情を観てるだけで泣けてきました。また,素子役の安藤サクラも,何気ない会話の中で聞き返したり反芻したり,ただ笑ったりなのに,そのときの感情が読み取れるような絶妙の間のとり方で,とてもとても素敵でした。
最初から徹底してどんよりしたグレーの強い画面を続けて,同じ画面でフォーカスを少しずらしたり戻したりで感情のぶれを表現したりと,映像表現も素晴らしく,最後のシーンの光の演出でもう涙が止まらなくて。恥ずかしいくらい泣いていたので,他のお客さんがいなくてよかったです。
色んな感情が,小さな花びら(petals)のように風で舞ったり,地面に落ちたり地面を転がったり,地面から風に乗ってまた舞ったりと,丁寧に丁寧に積み重ねられた映画でした。観終わった後,ことばにできない感情を,誰かに少しだけ抱えてもらったり,話はしなくても誰かと一緒に同じ空や海を見ながら時間を共有してもらったり,そんなことがとても愛おしく思えました。
万人に気に入ってもらえる自信は全くありませんが,もしお近くの映画館で上映しててお時間があったらぜひご覧下さいませ。