弁護士会と安保法制反対の運動 (吉川弁護士)
インターネットでニュースを見ていたところ、弁護士会による特定の政治的な主張(声明など)について「弁護士自治とは全く無縁な『目的外行為』であり違法だ」などとして、所属している弁護士が弁護士会を提訴したとの記事を見たので、この点を少し考えて見ました。
この問題は、公益法人で強制加入団体としての弁護士会の「目的の範囲」はどこまでなのか、という良く考えるとなかなか難しい問題です。
関連する有名な判例として、南九州税理士会政治献金事件(最高裁平成8年3月19日民集50巻3号615頁)があり、判例は「政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである」から、「税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても」税理士法で定められた税理士会の目的の範囲外の行為であるとして、会員から特別会費を徴収する決議は無効としています。
では、弁護士会が、法律の制定に反対する声明を出したり、運動したりすることはどうでしょうか。
この点についても、既に、判例があります(日弁連がスパイ防止法に反対する旨の総会決議を行ったりしたものに関する)。
第1審(東京地判平成4年1月30日 判時1430号108頁)と第2審(東京高判平成4年12月21日自正44巻2号101頁)では理由も少し異なっているのですが、第2審判決は「特に、Yのような強制加入の法人の場合においては、弁護士である限り脱退の自由がないのであり、法人の活動が、直接あるいは間接に会員である弁護士個人に利害、影響を及ぼすことがあることを考えるならば、個々の会員の権利を保護する必要からも、法人としての行動はその目的によって拘束され、たとえ多数による意思決定をもってしても、目的を逸脱した行為に出ることはできないものであり、公的法人であることをも考えると、特に特定の政治的な主義、主張や目的に出たり、中立性、公正を損なうような活動をすることは許されないものというべきである。」としつつ、他方「弁護士は、『基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とし』(同法1条1項)『社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない』(同条2項)とされているところ、弁護士に課せられた右の使命が重大で、弁護士個人の活動のみによって実現するには自ずから限界があり、特に法律制度の改善のごときは個々の弁護士の力に期待することは困難であると考えられること、Yが弁護士の集合体である弁護士会と弁護士の集合体であり、その上部組織であることを考え合わせると、Yが弁護士の右使命を達成するために、基本的人権の擁護、社会正義の実現の見地から、法律制度の改善(創設、改廃等)について、会としての意見を明らかにし、それに沿った活動をすりことも、Yの目的と密接な関係をもつものとして、その範囲のものと解するのが相当である。」と判示し、最高裁も第2審を支持しています(最判平成10年3月13日自正49巻5号213頁)。
なお、その中で、南九州税理士会政治献金訴訟最高裁判決は事案を異にし本件に適切でないとしています。
さて、翻って、今回の安保法制に反対する運動ですが、これは多数の憲法学者が立憲主義に反し「違憲」であるとの見解を述べている法案であり、専ら法理論上の見地から理由を明示して声明を出したものであって、特定の政治上の主義、主張や目的のためになされたとか、団体としての中立性を損なうものであるとは言えないものと思われます。そうすると仮に会員の一部に異論があったとしても弁護士会としての目的外とは言えないものと思います。
だいぶ前置きが長くなりましたが、そのような訳で、弁護士会が主催する安保法制反対のパレードを、7月25日(土)(集合時間 16時 集合場所 西中山下児童公園(岡山東税務署の西隣,通称タコ公園)に予定しておりますので、お時間がある方(勿論、弁護士に限りません。)は、ご参加ください。