中小企業センター座談会
中小企業センター座談会 (開催日:2016年12月27日)
(1)中小企業センター設立の経緯を教えてください。
(2)どうして,中小企業の問題を扱うセンターに業務を集約することが必要なのでしょうか?
(3)中小企業センターでは,主にどのような業務を担当していますか?具体的な事例も交えて教えてください。
(4)当事務所における中小企業からの相談状況・稼働状況を教えてください。
(5)中小企業センターに専属する弁護士が配置される狙いは,なんでしょうか?
(6)これから中小企業経営者を目指す方へのアドバイスを教えてください。
(PT:小堺先生 M:水谷先生 U:上尾先生 I:井上先生)
(1)中小企業センター設立の経緯を教えてください。
M:中小企業センターを,当事務所に設立しようとなった経緯について,後見センターがすでにあって,将来的には後見センターの他,労働紛争センターとか,中小企業センターとかいくつかのセンターをつくって対応しようっていうのが,戦略的にはそういう狙いがあります。中小企業センターはそのひとつで,中小零細企業の経営者に対して,なかなか弁護士とのアクセスが難しいという現状が,つまり司法書士や税理士のような定期的な役員変更だとか,確定申告だとか,そういう業務の定期的な関連性がないので,どうしても敷居が高い,という点が一点。それからもう一つは,中小企業経営者が弁護士に対する相談ごと,一番多いのは債権回収,2番目が倒産対応,3番目が労務管理と言われているんですけど,それぞれに対して,相談を受ける弁護士の特別な知識・スキルが必要になってきているので,中小企業経営者からのニーズに対応するために特別なセンターをつくって,そこでスキルやノウハウを蓄積していけたらいいなあ,といのうが大雑把な位置づけになるんですね。
U:はい。水谷先生のお話とも被るんですが,やっぱりある程度のノウハウの集積が必要かな,と。例えば,中小企業の問題っていうのは,単に法律だけじゃなくて税務とか会計とかそういった幅広い分野に関わってくるので,そういったもののノウハウを蓄積して,より良いサービスを提供したいというのが,一つ設立の目的かな,と思いますね。
(2)どうして,中小企業の問題を扱うセンターに業務を集約することが必要なのでしょうか?
M:所定的な債権回収,売掛金回収,倒産処理だとか労務管理以外にですね,新しい問題といったら,事業承継,M&Aと言ったら大きすぎるかもしれませんが,事業承継をどうしていくのかというのが,これからの大きな課題になっていると思うんですね。そういう事業承継について専門的に対応するとしたら,さっき上尾先生が言われたように,税会計に関する判断アドバイスが求められるし,ある意味スピーディな処理が,時間との闘いという側面がでてくるので,弁護士が片手間にやるのはなかなか難しいのかな,ということで今言われたような,新しい需要,事業承継についても積極的に対応していきたいと。あと色んな周辺の問題がありますよね。資金繰りだとか商標特許の問題だとか,不正競争防止法だとか知的財産関連の問題だとか色んな問題があるけれども,そういう経験を幅広く蓄積できるようなセンターにしていきたいな,と。
U:私としては,さらに水谷先生が仰ったのに加えて,事業DD(デューディリジェンス)といいますか,事業の業績といったマネージメントっていうんですかね,そういったところについても仕事ができればいいなと。例えば,経産省とかが出している業界の平均的なB/S(バランスシート)とか,P/L(損益計算書)とかの数字があると思うんですけど,そういったものと対象会社との比較をしてですね,一種経営分析的なアドバイスとかそういったものにまで対象を広げていきたいなというふうに思っています。簡単に言うと,企業の健康診断みたいなかたちで,県内の同業他社と比べて例えば,「御社は従業員の人件費が高いですよ。」,とかそういった経営判断に資するような情報が提供できる,そういった分析もできたらいいなと思います。
U:そうですね。素晴らしいまとめですね。
U:そうですね。
(3)中小企業センターでは,主にどのような業務を担当していますか?具体的な事例も交えて教えてください。
U:稼働数は多くないですが,私が今関わらせていただいているのは,他の先生と一緒にやっている企業の再建とかですね。その中で「事業DD」と言って,会社の業態,業績,健康状態を診断したりとかそういった仕事もしてますし,もちろん一般的な顧問と言われるような仕事,クレーマーに対する対応とか,そういった仕事もしてはいます。もう少し弁護士が,うちのセンターであれば,幅広い仕事が出来るよっていうところをやっていけたらな,と思っているんですが。特に経営分析とかになってくると,継続的な相談になると思いますので,そういった形の「サポート」をしていきたいな,と。まだそこまで数は多くないですけど,2~3件はそういった「サポート」の形で動いているかな,と思います。
M:今やっているのは,確かにかなり少ない。今まで依頼者が中小企業経営者・事業者というのは結構あって,例えば代表取締役社長が死亡して相続の問題が発生して,株の相続に伴って,株式を売買して,事業承継を図ると。そういう一種の事業承継の事案だとかですね,小さい事業者が兄弟間で経営していて,兄が死亡した後に取締役の解任をされて,それに対してどう対応して紛争を解決していくかとかですね。あるいは,私の経験しているものでは,DDをやった後に事業再生ADRを使いながら,それをどのように事業再建して,監視をしていくのか,という監査役的な関わり方とかですね。いろんな問題があってですね,中小企業の場合,いろんな意味で会社との接点,経営との関わりっていうのは出てくるんじゃないかな,と思いますね。それが,今その企業の事業承継・DD・事業再生ADRの私が経験した例を報告したんですけども,そういうことも含めてセンターでは経験を積んでいきたいなぁ,と。
U:そうですね。
M:それに加えて言えば,僕が岡山大学内支所にいたときに,上尾先生と一緒にやっていた,アプリを開発する,新商品を開発している会社の株式とか労務に関するアドバイスですね。要するに,「ベンチャー支援」。彼らは,あまり法的知識がないので,将来的に事業をベンチャーで立ち上げるときに,株式を構成し,それを通して経営支配をしていくか,に関するアドバイス的な事業も。さっき言った3つの分類以外に指摘するとすれば,「ベンチャー支援」というのも,数は少ないけども,やった実績があります,と。
U:はい。
M:外部の団体ってどういうことですか?
M:法人間の内部紛争というのは結構あったし,もちろん宗教法人も含めて。熾烈な対立はありましたよ。
U:そうですね。
(4)当事務所における中小企業からの相談状況・稼働状況を教えてください。
U:まだまだ少ないんじゃないかな,と思うんですよね。うちの事務所でそういうことが扱えるということが,我々も認知されていないところもあるし,数ももっと研鑽積まないといけない。外部に認知されていない,というところと,我々も中でもっと技術を高めていかなきゃいけない,という双方の問題があると思うんです。ただ,今後はもっともっと増やしていきたいなあ,とは思っていますし,弁護士は皆さんが思っている以上に,いろんなことが出来るんだ,というところを認知していただかなきゃいけないかな,と。実際は,弁護士は,帳簿が読めないとか,数字があんまり正確に読めなかったりとか,税金のことあんまり分からないとか,数少なくないと思うんです。そうではなくて,当センターは幅広くやっていっていることを,法律だけとか,裁判だけとか,ではなくて,そこをもう少し広い業務の幅を認知していただきたいなあ,とは思っていますね。特に,事業DDと言ったら,会社の業態を踏まえたアドバイスになっていくので,むしろ法律家よりもまた幅広いイメージを持っていただけるように,我々も努力していかないといけないかな,と思いますね。
M:今,質問があったセンターでの取り扱い事件を分野ごとに,数字で表すというのは,これからの仕事だと思います。出来るだけ1年ごと,公表していけたらいいですね。よくあるじゃないですか,当病院の手術の件数だとか。非常に件数的には分かりやすい。
U:(笑)まだまだ。これから。
U:はい。
M:私は,経営革新等支援機関として,動いたことはない。やっているのは,井上先生だけなので。何件かそれで。井上先生に振った方がいいかもしれない。
M:経営革新等支援機関として,どんな活動をしてきましたか,という質問らしいよ。
I:中小企業の経営改善支援計画の策定,中小企業が制度融資を受けるときの後援とか,チェックということが今までやっている内容ですね。現在も相談を1件受けています。
I:経営改善支援計画の策定は2件。今回,3件,4件,5件目をやる予定でいます。
融資を受けるときのチェックは2件。相談は現在1件。
I:これまではですね。
U:(笑)私的整理は今1件頑張ろうとしているんですけど,公的な金融機関が入ってくると,なかなか私的整理が難しいケースが多いな,というのが,特に地方だと実感としてありますね。いわゆる,事業再生ADRとかそういったものであれば,今特定調停が使い勝手が良さそうなので,それを試しているんですけど。なかなかちょっと首を縦に振らない金融機関というケースがあって,一部でしか使えない。ただ,今後もっと「弁護士頼んだら破産」というだけじゃなくてですね,幅広い解決の仕方があるので提案したいなと。特に,会社を終わらせるとき,というのは経営者の方必ず頭の中では考えていることだと思いますので,なんらかのサポートが出来たらな,と。まぁ,幅広い,要は「弁護士頼んだら,=破産ではないよ。」というところまでできたらいいな,と思いますね。
U:そうですね。
U:継続的な相談だし,当センターとしては,なるべく幅広い価格帯で。現状そういった形で顧問契約は準備はしています。
U:そうですね。マトリックスから訂正するとしたら,相談件数はなかなか契約するときに判断が難しいことがあるかもしれないので,事業規模だけで分けてもいいかなぁ,と最近は思っているんですけど。
U:ある程度幅広い選択肢を,というか。他よりも低めになってたりします,という。あんまりそれすると,あれかもしれないですけど。しんどい思いしなきゃいけなくなるかもしれない(笑)
U:そのためには。顧問で継続的な相談。つまり法律的な相談だけでなく,経営にわたるアドバイスも係わらせて頂けたらな,と。そういうところですね。
M:今までは,代表取締役社長が,急に亡くなられた後のそういうごたごたの中で,働いている従業員の生活の確保,取引先の確保。そういうことを念頭において,散らばっていた株を1個にまとめて,経営支配をする,という手法でやってきたので。なんだっけな,質問が?答えがずれてきた。
U:承継に関してってことで。
M:重要性が今後出てくるのではないか,というふうになれば,それは中小企業経営者も高齢者になるし,一人株主が多いのかどうなのか分かりませんが,遺言とか相続の問題が絡んでくるので,それは質問のとおり増えてくるんじゃないかな,と。
U:まぁ,そういった点においても顧問というのは有益になってくるかな,と。
M:そうですね。
U:今,政府系の機関でも,こないだ専門家の集まりに,井上先生も行かれてましたけど。事業承継先のマッチングをさせる機関みたいなのがありましてですね。それがデータベースを持ってて,最適な引受先を探すという,まぁ,企業のお見合いセンターみたいなものなんですけど,そういったところとの連携,専門家同士のつながりも我々は一応努力してて,そこでベストマッチングができるような体制,その件に関してまた別法人つくろうかみたいな話にどうもなっているみたいなんですけど。そういった形でも力を入れていきたいと。つまり,事業承継において,親族だけじゃなく,いろんな引受先を提供できるような,そういう関係機関とのコネクションをつくりたいというところですかね。
(5)中小企業センターに専属する弁護士が配置される狙いは,なんでしょうか?
U:やはりノウハウの集積とうちの事務所だと個々人で受けていたので,事務所全体の件数の把握が十分出来ていなかったところもあるので,そういったものを集約・効率化・専門化というところで,ノウハウを高めていきたいというところと,それをできる弁護士を将来的に増やしていく,というところで一つの分野,後見センターのようにですね,一大分野に今もう成長しているとは思うんですけど,そういった形で一つの事業分野,事務所の事業部門として立てていきたい,というところですかね。
U:そうですね。
(6)これから中小企業経営者を目指す方へのアドバイスを教えてください。
U:やっぱり弁護士であればいいとは思うんですけど,相談できる専門家,それが弁護士であれば我々としては有り難いとは思うんですが,そうでなくても税理士なりの専門家がやっぱりいた方がいいと思うんですよね。中小企業って本体たるサービス事業だけではなくて,それ以外のレクリエーションというかですね,法律とか税務会計とかいろんなことをやらないといけないので。それを理解した上で,事業を頑張っていこうと思うのであれば,本体たる事業とは関係ない,まぁ関係ないといったら言い過ぎかもしれませんが,それ以外の周辺部分は相談できる専門家はつくっておいた方がいいと思いますね。それで時間を取られてしまって,本業がおろそかになるっていうのは,あれだと思いますので。そういった頼りになるのが,我々弁護士であれば,そういった相談の寄り添いになりたいというのが,我々の思いなんですけども,気軽に相談できる専門家がいた方が何かと思っている以上に便利だと思いますので。そういったものを見つけられるのは絶対いいんじゃないかな,と思いますね。
M:中小企業経営者の方と飲んだり,食べたりする機会があるんですけど,この前も上尾先生と一緒に,食料品加工関係ですけれども,やっぱり彼らもある意味で孤独なので,いろんな異業種との交流を求めている。上尾先生はYEG(商工会議所青年部)というところに所属して,そういう機会があると思うんですけれども,私はそういうのがないので。いろんな,お互いの考え・意見が非常に新鮮になって,それが経営に活かせたり,我々の弁護士業に活かせるということもあるので,繰り返しになるけれども,なんでも相談できるそういう親しい関係をつくってきたらいいかなぁ,というふうに思いますね。
U:まだまだ誇るべき実績がないので,実績を表せるように頑張らなくちゃいけない。