岡山南支所座談会

岡山南支所座談会 (2019年10月8日実施)

参加者:西尾史恵弁護士,山本雄三社会福祉士

【質問事項】
1 岡山南支所開設の経緯を教えてください。

2 岡山市南部を中心とした地域における法的ニーズの特徴はありますか。

3 現在の岡山南支所の人員体制を教えてください。

4 「地域密着型支所」とはどのような理念でしょうか。

5 岡山パブリックにおける今後の「地域密着型支所」の展望はどのようにお考えですか。

広報PT(以下PT):よろしくお願いします。まず,自己紹介をしてください。西尾先生から。
西尾(以下「N」):はい。岡山南支所長の西尾です。
PT:もう(別の座談会で)何回か登場していますので(簡単な自己紹介で)いいですかね。じゃあ山本さんもお願いします。
山本(以下「Y」):岡山パブリックに入職して3年目となります,社会福祉士の山本と申します。よろしくお願いいたします。

PT:まずこの支所が開設されたのは,令和元年8月23日ですかね。

N:はい。

PT:今年の8月23日に開設ということなんですが,どういった経緯で開設することになったのかを教えてください。

N:平成26年3月に後見センターが設立され,その後,平成29年8月に一部・二部制となったんですけど,担当エリアが東エリアと西エリアっていうおおまかなエリア分けしかできてなくて,身上監護を対応するにあたっての移動時間とかのマンパワー的な問題で,もうちょっと地域密着型の支所を開設しようということになりました。それで,地域密着型支所を作るということが検討されました。そうした中で,岡山市内で最も需要が多かった北区の次に多かったのが岡山市南区であり,かつ南区は弁護士が一人しかいないところだったので,岡山南支所開設に至りました。

PT:山本さんから補足ありますか。

Y:西尾先生が言われたとおりです。当時は,一部・二部制であったんですけれども,担当の社会福祉士は倉敷方面に行ったり赤磐地区に行ったり,移動時間がかかるというところもありまして,やっぱりどうしてもすぐご本人に寄り添った支援という意味では時間がかかる,ということで地域密着型支所の開設に至ったところです。

PT:そうすると,後見事件をより効率よく,本人に密接に対応していくために,本人により近い場所に支所を開設したかったというのが経緯ということですかね。

Y:はい。

PT:(岡山市南区は)北区に次いでニーズが多い,件数が多いという話がありましたけれども,岡山市南部を中心とした地域において法的なニーズというのが多く存在するってことですかね。

N:開設したばかりなので,どのような法的なニーズがあるか全部把握はできていませんが,少なくとも後見事件のニーズは高いエリアです。

PT:地域的な特色があるとかはありますか。

N:一番は慈圭病院の存在と,そこを中心とした精神障害者の施設などの社会資源がありまして,あと系列の救護施設もある関係で,所得の低い方が多いと思います。また,岡南エリアには大きい県営住宅がありまして,高齢者や所得の低い方が多いというのが背景にあります。

PT:他に何か特徴がありますか。

N:岡山市南区には南区「南」と南区「西」っていうエリアに分かれるんですけど,南区「南」というエリアには人口が10万人以上いて,弁護士が一人もいないという特徴があります。

PT:そうなんですね。

N:南区の中でもまったく別ですね。南と西は。

PT:岡山市のホームページによると,岡山市全域での総人口が約72万人で,南区が16万8000人ぐらい,市全体に対する割合が23.38%に今なっているんですけど,結構人口が多いんですかね。

N:多いんですけど,南区南のところに10万人くらい,狭いところに集中しているんです。南区西の方は,広いところに7万人くらい。

PT:医療機関以外にも福祉施設とか教育機関とかあると思うんですけれども,そういった人口に比例して数は多くあるでしょうか。

Y:総合病院とかそういう意味ですか?

PT:病院に限らず施設とか教育機関とか,色々と。

Y:教育機関はそれなりにあるとは思うんですけど,病院とか施設っていう面で捉えると,特に施設なんですがちょっと少ないかなという印象は持ちます。
N:高齢者施設はそんな特別に密集していることはないんですけど,慈圭病院の近くに泉学園という知的障害者の方の施設があります。

PT:人口に対してだと,そういった施設は少ないけれども,当事務所が抱えている事件としては,かなり件数が多くなっているということでしょうか。

N:毎月3件以上打診があります。

PT:岡山南エリアだけで,ですね。岡山南支所の位置なんですけれども,南区だけをフォローするのか,それとももう少し広いエリアをフォローしているのか,その辺はどうなんですか。

N:後見センター管轄では南区と早島町が岡山南支所の管轄です。

PT:東の方はどうなるんですか?南支所からだと国道2号線のアクセスが良さそうですが。

N:中区以降は東部,ここからいって旭川の橋渡ってからは東部が担当です。

PT:本部の東部が担当しているということですね。

Y:はい。

PT:現在,南支所では,人員体制としてはどれくらいの規模でやっているんですか。

Y:弁護士が西尾先生1名と,社会福祉士が私山本,事務局が2名,身上看護補助が1名の体制5人体制で行っております。

PT:まだ開設して1ヶ月と半月ぐらいだと思うんですけれども,事件は本部後見センターから持ってきている,ということですよね。

Y:はい。
N:あと8月23日以降の新件ですね。

PT:事件数としては,新件を受けて行く余裕はあるんですか。

N:9月だけで5件くらい受けたはずですよね。
Y:はい。
N:やっぱり需要が多いんですよ。ここ(岡山南支所)へやってきたから。

PT:春日町の本部にしか事務所がないのと比べ,南支所ができてから,相談のしやすさが変わっているという印象はありますか。

Y:それは感じます。

PT:具体的に言うと?

Y:今までどこに相談しようかなと迷われていた施設の方とかが,迷わず岡山南支所に相談をしてくださることであるとか,被後見人さんの支援のためにケア会議とかで集まった時に,ちょっとしたことでも相談をしてもらえるというところだと思います。

PT:弁護士からみてどうですか。

N:同じです。

PT:相談する側の視点からすると,たくさん事務所のある岡山に相談に行かなきゃいけないっていうのと,南区だったら岡山南支所があるからというのでは,相談のしやすさが違うんですかね。

Y:そう感じています。はい。
N:悩みとしては,挨拶状とかも,リストアップはしているんだけど,実は送れていなくて。送っても,依頼を全て受けいれる体制にはなっていないんですね。送っていなくても,今も結構依頼が来ちゃっているので。

PT:その辺の感覚って,支所を出す前と出した後で違うところがありましたか。

N:支所開設以前は,(多くの依頼を)受けても,本部の誰かが対応できたけれど,今は受けたらここでしか対応できない,というマンパワーの問題があります。事務員さんも限られているし。

PT:地域密着型支所として,実際に南支所を出してみて,地域密着の意義を感じているということだと思うんですが,そもそも地域密着型支所っていうのが少なくともこの岡山パブリックでは初めての試みで,初めての実践が南支所ということだと思うんですが,どういった理念でそういった支所を作ろうということになったんでしょうか。

Y:先ほども申した通り,倉敷方面であるとか赤磐方面であるとか,色々移動時間も考えて,本人さんから,または施設さんからお電話頂いたときに,即時の駆けつけ対応っていうことが難しかった面があったんですけれども,地域密着型支所としては,やっぱり地域に根ざして地域ネットワークというところの拠点となることで,常に被後見人さんはもちろんのこと,支援者さんにも身近で関わっていくことができるというところですかね。

PT:西尾先生はどうお考えですか。

N:同じようなことではありますが,まず「身近」というのがキーワードだと思うんです。ご本人が住んでいる生活エリア・生活基盤にパブリックが存在する,っていうことがまず重要かな。また,普通の事務所だったらどこの地域の方でも(相談を)受けると思うんですけど,岡山市南区と早島町に明確することによって,この地区にはこの事務所があるってことが対外的にも明らかになって,まずは知ってもらえることが重要です。そこから,全然ハブ機能になってはないんですけど,例えば矢掛町とか狭いエリアであれば社協さんがハブ機能を持っていて,「そこに持っていけば,何とかしてくれる」と思うんですけど,岡山市はそこまで密着している事務所はないと思うので,南区に関しては,何とか南支所に行けばなんとかどこかで決まる,というようになれたらいいなと思っています。

PT:人口は,同じ岡山市の中で23%ぐらいが住んでいる地域だというのに対して,弁護士は約400人の弁護士がいる中で,まだ一人しか事務所を持って構えていなかったというように,弁護士事務所ってかなり偏在して,やっぱり裁判所の近くである市の市街中心部に集中している傾向があると思います。地域密着をしてみて,やっぱりここがいいなっていうのもあると思うんですけれども,逆に,不便なことって何か出ていますか。

N:今の所,出てないかな。
Y:そうですね。
N:ただ,ご本人の移動が南区に限らないので,本人が南区の病院にいても,次の施設を探そうとすると,中区に行くと後見センターに案件を渡さないといけないので,そこは不便に感じますかね。担当者の変更が発生するという点で。

PT:後見事件を取り扱う中では,やっぱり身近であることが便利だと思うんですけど,後見事件を扱っていると,どうしても遺産分割であったり裁判であったり,法律的な処理が必要な事例が出てくると思うのですが,そうした場合,南支所から裁判所まで行くのが大変だったりはしないですか。

N:後見センター所属の時から,純粋に裁判事件で裁判所に行くのは年に数回しかないので,遠いということでの不便は,全く感じてないです。

PT:裁判事件になったら本部の訴訟担当の弁護士に(案件を)振ろうか,とかそういう風になる流れはありますか。

N:まだ本格的に検討はできていないですが,基本的にはこちらで対応しようと思っています。というのは,北も東も後見事件が多く大変な状況で,弁護士も相当数の後見事件を持つようになりましたので。

PT:弁護士一人だと,裁判も行って,地域密着もしてとなると,なかなか体が足りないっていうか。

N:一般事件ではなく,後見事件に絡むことだけなので,せいぜい破産か遺産分割とかかなとは思うので,役割分担をする必要まではないかもしれません。

PT:今後は,弁護士をもう少し補充しようとか,社会福祉士をもう少し補充しようとか,そういった展望もあるんですか。

N:もちろん,はい。事件数を増やしていこうと思いますので。

PT:増加ペースで行ったら,今の人員体制では,とっても賄いきれなくなるだろうという見通しを持っている,ということですね。

N:はい。

PT:南支所所属になって,勤務先が変わったと思うんですけども,職員にとっては支所に勤務するのは便利になったんですか,それとも大変になったんでしょうか。山本さん,どうですか。

Y:通勤経路がまだはっきりわからなかった時は,「時間がかかるのかな」という思いはあったんですけど,よくよく考えてみたら,本部に通勤していた時間とあまり変わらないのかなっていうのがあるんです。まあ,夕方帰る時,帰宅ラッシュにあたれば時間はかかるんですけど,本部にいたときとそれほど大きな変わりはないと思います。

PT:南支所担当エリアには,当然病院もあるし,教育機関もあるし,様々な施設がもう揃っている状態だと思うんですけれども,そこに法律事務所が飛び込んでいくっていうことで,やりやすさ,やりにくさって感じたりしますか。例えば,津山市は,実は人口10万しかいないから,南区は,その倍は行かないですけど1.5倍以上の規模であり,地域的な発展もこちらの方が発展してきている,でも弁護士は一人しか今までいなかったっていう地域ということになりますが,そこに出て行くっていうのがどういう感覚なのか。

N:岡南エリアって,住民が集中しているわけです。元気な方だったら,車で裁判所まで10分ぐらいで行けるところなので良いですが,高齢者の方などは,車で30分くらいでも移動ができない。だから,岡山南に法律事務所があると,この辺の方でも,看板見ておばあちゃんが来たこととか,今までも一回くらいあったし,こちらが訪問していくにしても5分とか10分で行けるところならば,相談もしやすいです。まだまだ,いくらでも相談というか,需要はあるのかなと感じています。

PT:これまでは,事務所出すとしたら裁判所の近くというのが鉄則ぐらいだったと思うんですけど,そういう出し方ではないわけですよね。

N:でも,他の弁護士から,「独立しようと思ったらこのエリアを狙っていた」って言われたんですよ。「探したら物件が良いのがなくて諦めたけど,僕も狙っていたんだよ」と言われた方が何人もいらしたので,弁護士がいないというのはある程度の先生は皆チェック済みなのかなとは思います。

PT:最後ですけれども,岡山パブリックにおける今後の「地域密着型支所」ということで考えた時に,実践されているお二人から見て,どのように展開していくのがいいのかな,というのはどう考えですか。じゃあ先に山本さんから。

Y:岡山南支所を開所して,来年には倉敷支所が開所予定で,それぞれの場所で地域密着型支所として地域に根ざすことはもちろんなんですけれど,地域ネットワークを構築していくことで,それがかえって岡山パブリック全体の今後に繁栄にも繋がっていくのではないか,という考えは持っています。ただ,漠然としているので,私も詳しくは詰めることができていないのですが,まずやっぱり,支所毎がそれぞれの地域に密着することが大切かなと考えています。

PT:従来の法律事務所のイメージとだいぶ変わってきそうな感じを今の話から受けるんですけど,西尾先生はどうですか。

N:質問を十分に理解できていないかもしれないですが,「ただ支所を出す」っていうのと違うと思うんです。地域密着型支所というのがここ(岡山南)みたいな(対象エリアが)狭いイメージなので,倉敷よりも狭いんですよね。弁護士会との調整になるかもしれないですが,可能であれば,支所までどんなに遠くても30分以内に駆けつけられるように,エリアを絞っていって,本人高齢者とか障害者の方や一般の方が,すぐに行けるような拠点となっていくといいと思います。

PT:それって,法律事務所の支所の置き方とはだいぶ異なっていて,地域に「法的ニーズ」があってというよりは,まず「地域」があって地域に入っていく,っていうようなイメージなんですかね。

N:はい。地域共生社会の一員みたいな感じで捉えているので,法的ニーズとか裁判ではなく,日常生活の困りごとのようなちょっとしたこととか,後見等の権利擁護に関する相談をしてもらえるイメージですね。私には,裁判所に行くっていうイメージが元々なくて。それでも規模とか人口とかを考えて,パブリックに関わらずですけれども,弁護士に対するニーズがあるんじゃないかな,と考えます。

PT:なんか,わかったような,わかっていないような・・・,難しいですね。発想が法律事務所じゃないのかなっていうところが,うまく出せてないと思うんですが,でもやっぱり,紛争解決がスタートではないのかな。

N:これまでの福祉とか地域共生ケアシステムというのは,介護と医療しかなかったから,そこに司法も普通のようにあるべきだと思うんですよ。紛争があってから入るのではなくて,もともと地域の中にいて,常に信頼関係がある中で,一つの出来事として,自分も司法サービスを提供するというイメージですね。

PT:「司法と福祉の連携」っていうキーワードもよく聞きますけれども,そういうイメージですかね。

N:広く言えばそれもあるし,「社会資源」の一つですかね。これまでは,介護と医療だけでうまくマッチングしてなかったところに,司法が入ることによって,さらにもう一歩連携が密になる,安心ネットワークが広がるようになればいいと思うんです。多くの障害の方とか,現状では,ネットワークに繋がってなかったりしますが,パブリックは障害の方とか刑事事件の方とかも全部繫がっているわけだから。

PT:山本さんはどういうイメージを持っていますか。

Y:これまで医療と福祉があって,その中に介護も入りますけど,そういったところに司法が入っていくならば,分からないことや不安なことを,ネットワークのチームの一員として聴くことができるので,本人にとってもその支援者にとっても,安心してそこを任せられるという思いを持ってくれるのかな。

PT:まだ受け身なんですかね,それとも地域づくりに能動的に強くなっていくというような働きかけるイメージなんですかね。

N:将来的には働きかけていきたいとは思うけど,段階的にはそこまで行けてなくて,まず地域にはこういう課題があって,ということが自分で体感としてわかれば,積極的にも行かなきゃいけないなと思います。

PT:地域密着支所としても関わり方の段階があって,まだ初期だけれども,時間が経って馴染んでいくことによって,積極的に地域づくりに参加していけるような段階っていうのもこの先訪れるだろうと,そういうところは見据えている感じですかね。

N:そうありたいとは思います。

PT:僕の考え方が浅いだけなんですけど(笑)意外と深いですね,地域密着は。大体十分話が聞けたと思うので,今日はこれで終わりにしましょう。ありがとうございました。
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